現状認識

 世界中の多くの人にとって、社会運動は自分たちの生活に関わる意思決定に影響を与えるための手段として広く用いられてきました。特に、選挙などの公的な制度では声が届けにくいときに、その代わりを果たしてきました。ここ15年ほどを振り返っても、アラブの春(2010〜2012年)、Occupy Wall Street(2011年)、Black Lives Matter(2013〜)、#Me Too(2017年〜)、The Women’s March on DC(2017)、Fridays for Future(2018年〜)、香港の民主化運動(2019〜2020年)など、世界各地で大規模な運動が起こってきました。直近でも、アメリカや韓国において政権に対する大規模な抗議活動が展開されています。統計的にも、世界の社会運動は増加傾向にあり、2009年から2019年にかけて年平均11.5%の上昇を示しています。その勢いは、1960年代に世界中で広まった運動の波をしのぐとも言われています。

 一方、日本では1960年代に学生を中心とした大規模な運動が展開されましたが、その後は一部のアクティビストによる活動が続いているものの、なかなか大きなうねりには至っていません。以下のとおり、社会運動が活発なカナダと比べると、運動への参加経験者の割合には大きな差が見られます(World Value Survey 7(2017-2022)。66カ国が回答)

政治活動・社会運動カナダ日本
合法的/平和的デモへの参加23.6%6位5.8%61位
署名活動への参加70.2%5位50.8%9位
ボイコットへの参加26.4%2位1.8%同率61位
非公式ストライキへの参加20.7%2位4.1%同率45位
団体またはキャンペーンへの寄付41.4%16位45.3%11位
政府関係者への連絡39.1%2位6.4%58位
政治問題について行動を起こすよう周囲を促す31.6%2位2.4%同率63位
他の人に投票を促す65.0%1位20.6%30位

 近年、日本でも政治離れや低い投票率への危機感から、とくに若い世代を中心に政治への関心を高める活動が広がりつつあり、注目を集めるようになってきました。一方で、選挙以外の方法による社会運動は、まだまだ一部の人たちによる特別な活動という位置づけにとどまっています。失われた30年を通じて生活はますます厳しくなり、不透明さを増していく社会の流れに対して、自分たちが抱える不安や不満、要求を表明する手段として、日本でも社会運動がより広範に行われることが望ましいと、私たちは考えています。

社会変革をリードすることが期待される組織・職種の置かれている厳しい状況

 市民社会の立場から、社会課題の解決や社会変革を目指す新たな担い手として登場したNGOやNPOの多くは、プロフェッショナル化することで政府や企業から認められ、公益サービスを幅広く提供するようになってきました。しかし一方で、市民から離れてしまったことで体制へのラディカルな視点は削ぎ落とされ、サービスプロバイダーとしての役割に落ち着いてしまったように見えます(The non-profit industrial complex (NPIC)の視点)。

 また、『社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する専門職』であるはずのソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士など)の多くは、厳しい労働環境のもとで働かされるだけでなく、人々の解放とエンパワメントよりも管理や監視の役割をますます担わされてしまっています。

 さらに、批判的な視点からオルタナティブな考えを生み出せる数少ない場所であったアカデミズムも、市場化や効率化という資本主義の論理の浸透により、教職員の非正規化、学生の学費負担増、短期的成果で評価しにくい人文社会科学をはじめとした研究の軽視などが進み、自由な学問のスペーズが急速に縮小してきています。

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